第3章 2.マイルド加温療法について
2-1.温熱療法とマイルド加温療法
広い意味では、温熱療法は民間レベルのものから、基礎実験を踏まえその有効性を明示したものまで、様々ですが、保険適応で認められているがんの温熱療法は、ハイパー-アサーミアのことを言います。
腫瘍局所をラジオ波を照射し(局所加温)、腫瘍を43℃以上(一般に細胞は43℃以上で死ぬ)にしてがん細胞を死滅させる療法です。かなり大がかりなラジオ波を照射する加温装置が必要となります。 詳しくは、日本ハイパーサーミア学会のホームページを参照下さい。
これに対し、我々のマイルド加温療法は、がん細胞を直接43℃の熱で死滅させるのではなく、それよりもマイルドな、40~42℃の熱ストレスを全身の細胞に与え(全身加温)、全身の細胞に増加するヒートショックプロテイン(HSP)の持つ生体防御作用、免疫増強作用、分子シャペロン作用(蛋白質の介添え役)の生理作用を利用しています。
がん治療で最も重要なHSP作用は、免疫増強作用で、がん細胞を免疫力(このコーナーの第2章の(2)HSPの免疫増強作用でも述べたように)で、がん細胞のがん抗原提示を強力にするとともに、NK細胞活性、樹状細胞活性を増強し、がん細胞を死滅、増大させない免疫力を高めます。
2番目は、生体防御作用、分子シャペロン作用により、正常細胞を強くして、がんの転移や再発から守る作用です。全身の正常細胞をがんから守ることも重要ながん治療(がん予防)と考えています。
2-2.マイルド加温療法の利点
1)マイルド加温療法は、熱ストレスにより、増加するHSPの生理作用を利用することから、様々な生体に有効な作用を期待できます。
・HSPの生体防御作用の1つである免疫増強作用は、まさしく、がん免疫そのものです。がん治療に働く免疫作用は、HSPが存在することにより増強されることから、免疫力が低下しているがん患者さんにはHSPは大変役に立ちます。 まず、日々、自分で自分の免疫力を上げることが重要なことです。この、一助となるのが、マイルド加温、HSP入浴法です。
・抗癌剤、放射線等様々ながん治療で、とことん免疫力が低下すると、免疫力の回復が非常に困難になります。早くから、マイルド加温、HSP入浴法で、HSPを高めておくことが重要です。
2)マイルド加温療法は、全身加温を基本としており、全身の細胞にHSPを増加させます。
・がんは何時、何処に転移するとも限りません。HSPを日常から高めておき、転移・再発を予防することも大切です。
・風邪をひかない等、がん以外の病気にもかからないよう予防医学として有用です。
3)マイルド加温では、全身を温めるので、血液の循環が良くなり、血流が増加することにより、がん細胞への抗癌剤の取り込みが増加し、抗腫瘍効果が増大します。
・このコーナーの第1章の(3)で述べたように、マイルド加温を併用すると、マウスの移植がんへの抗癌剤の取り込みが、加温しないマウスより4~5倍多く取り込まれます。よって、投与された抗ガン剤が、効果的に働き、がん細胞が効率良く死滅します。
4)マイルド加温の予備加温療法(プレコンデイショニング)―抗癌剤の副作用の軽減―
・抗ガン剤の投与により、がん細胞のみでなく、正常細胞も傷害を受け、副作用の原因となります。
即ち、正常細胞にとって、抗ガン剤は大きなストレスとなります。
・マイルド加温療法では、全身の細胞にHSPが増加し、そのHSPが、細胞の受けるストレス(抗癌剤ストレス)を防御することにより、抗癌剤のストレス(副作用)が軽減されます。
即ち、予め抗癌剤投与の2日前に、マイルド加温でHSPを増加させておく(プレコンデイショニング)事により、抗癌剤の副作用の軽減に役立つわけです。
5)抗癌剤治療では、自身の免疫力が急激に減少していきます。
・抗ガン剤は、骨髄での造血作用(白血球や赤血球、血小坂等の血球を作る作用)を障害するので、白血球の好中球やリンパ球がまず減少し、免疫力が低下します。この免疫力の低下を、少しでも軽減するため、マイルド加温で温め、HSPの免疫増強作用を利用し対応します。
6)癌腫を問いません。今まで膀胱癌、尿管がん、大腸癌、膵臓癌、胃癌、子宮頚癌、子宮体癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、悪性黒色種(メラノーマ)等の癌患者さんにマイルド加温療法を適用してきました。
**現在、マイルド加温療法は、岐阜県養老町「船戸クリニック」0584-35-3335で実施させていただいています。