甲状腺機能低下症には、マイルド加温療法と
代謝を高めるちょっと進んだ入浴法(HSP入浴法)
甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの働きは、体を温めると増加するヒートショックプロテイン(HSP)の働きと良く似ています。甲状腺ホルモンもマイルド加温療法で増加するHSPも、新陳代謝を活発にし、身体を元気にします。そこで、甲状腺機能低下症の原因である甲状腺ホルモンの減少をマイルド加温療法で温める効果とそれによって増加するHSPの働きで補おうと言うわけです。
マイルド加温療法は、医療機関で加温装置を利用してHSPを増加させるために我々が確立した方法で、癌治療などに対する療法です。HSP入浴法は、マイルド加温療法の家庭版として我々が確立した方法で、自宅のお風呂を利用した自分で手軽にできるHSP増加法です。
今回は、甲状腺機能低下症に対して、マイルド加温療法やHSP入浴法がなぜ、どのようなメカニズムで有効なのかを解説します。
1.甲状腺機能低下症の原因に対するHSPの有効性
甲状腺機能低下症の約80%を占める橋本病は、「慢性甲状腺炎」ともいわれるように、甲状腺に慢性的に炎症が起こって、甲状腺機能が低下する病気です。炎症反応は、細菌やウイルスから体を守る生体防御として必要な反応です。しかし、この炎症反応が暴走し過剰に反応したり、だらだらと炎症が継続すると慢性炎症疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患等に陥ります。自己免疫疾患では自分の細胞、この場合甲状腺の細胞を非自己(自分の細胞で無い)と認識し傷害します。炎症反応の開始にはNF-κBという因子が必要ですが、この因子が暴走したり、いつまでも活性化し続けると炎症が慢性化します。HSPは、この因子の暴走を止め、抑制し、抗炎症作用を発揮します。よって、HSPの抗炎症作用は、甲状腺の慢性的な炎症である橋本病に対しての原因治療に貢献すると思われます。
2.甲状腺機能低下症の症状緩和に対するHSPの有効性
甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンによって活性化されていた各臓器の働きや細胞の代謝が低下するので、心身に様々な不調が現れます。甲状腺ホルモン産生低下による症状1)~5)をマイルド加温療法やHSP入浴法での身体を温めることとそれによって増加するHSPの働きでサポートします。
1)だるい、疲れやすい、元気が出ない
HSP入浴法では、疲労(筋疲労の酵素活性CPKが有意に低下する)が軽減します。これらの症状が悪化すると鬱状態になりますが、HSPには鬱病の改善効果があります。
2)寒がりになる。
HSP入浴法では体の芯まで温まります。また、入浴による静水圧効果により、循環系が活発になり、血行が良くなり体温を上げます。
3)太り易い
代謝の低下による消費カロリーの低下、脂肪の燃焼の低下により体重が増加します。HSP入浴法では代謝が盛んになり過剰な脂肪が燃焼され、中性脂肪が有意に低下します。
4)月経・妊娠などの異常
HSP入浴法で、基礎体温を改善することにより、月経・妊娠に対しても良い効果が得られます。
5)顔や手がむくむ
入浴の静水圧効果で、リンパの流れが良くなり、浮腫の改善に効果があります。
特に、これらの甲状腺機能低下症の症状は、基礎体温が36.0℃以下のいわゆる低体温の人に起こり易い症状であり、基礎体温の改善には、HSPを増加させるHSP入浴法が最適です。
3.甲状腺機能低下症の予防に対するHSPの有効性
甲状腺機能低下の原因は、炎症・免疫システムの異常の他に、病気そのものの遺伝ではないが橋本病になり易い体質(遺伝要因)が遺伝すると言われています。遺伝要因としては、年齢・性別・環境等の要因があり、最大の環境要因はストレスです。強いストレスにより自律神経が乱れ、免疫力が低下します。特に自己免疫疾患は、妊娠中や出産後に起こり易いと言われています。胎児の発育のための栄養供給、体の妊娠への適応、そして胎児を異物として拒否しないように免疫力を低下させる等、妊婦本人の自覚が無くても、身体的には大きなストレスを受けます。出産後は低下した免疫の回復等、自己免疫の異常が生じやすい環境となり、橋本病が女性に多い原因ともなります。ストレス防御効果のあるHSPは、これらの大きな環境変化によるストレス防御にも有効です。
これらの症状が認められたら、受診し医師の指示に従うと共に、自分自身の治癒力を高めるために、家庭で簡単に、自分でできるHSP入浴法を活用して下さい。
HSP入浴法で身体を温め、HSPを増加することは、甲状腺機能低下症の根本原因の改善と、各症状に対する対症療法の両面からそれらの症状緩和に役に立つと思われます(図1)。
図1
4. HSPを増加させるHSP入浴法
入浴条件としては、42℃なら10分、41℃なら15分、40℃なら20分(炭酸系入浴剤の使用で15分でも可)で入浴後、10~15分体を冷やさないよう保温します。大量の汗が出るので、必ず水分を補給すること。体温が38℃を超える、汗が出る等が目安です。なお、入浴時間は入浴の合計時間であり、途中で立ち上がったり湯船から出て休息してもかまいません。季節によって、入浴温度を変えたり、初めての方は無理の無いよう行ってください。HSP入浴法の詳細は、このホームページのHSP入浴法、「加温健康法」伊藤要子著、法研出版を参照して下さい。
(HSPには、分子量によって様々な種類がありますが、本稿では、熱ストレスで最も効果的に増加するHSP70をHSPとしています。)