-人は温かさを感じると温かい反応をする-
心理学の有名な話で、温熱に関するとても興味深い話を紹介します。
「温かい飲み物を持つと、相手のことを温かい人間だと感じる」という話です。
オリジナルは有名な科学雑誌Science 2008 年
「Experiencing Physical Warmth Promotes Interpersonal Warmth」に掲載されました。
身体的な温かさを感じると(物理的温かさ)、目の前の人のことも優しい、穏やかな温かい人間だと感じてしまう(心理的温かさ)というのです。これには、2 つの実験が紹介されています。
実験1.ホットコーヒーとアイスコーヒー:温度で人の評価が変わった。
41 人の大学生にホットコーヒまたはアイスコーヒーのどちらかを手渡しします。
そして、Aという人物の資料を読んでAがどんな性格か
10 項目の評価をしてもらいました。その結果、
*温かいコーヒーではAのことを「やさしい、穏やか」と評価しました。
*冷たいコーヒーではA のことを「やさしくない、利己的」と評価しました。
すなわち、物理的な温かさが人物評価によい影響を与えることが示されました。
実験2.ホットパッドとコールドパッド:温度で他人に対する行動・感性も変わった。
53 人の別の大学生に製品評価を装って、ホットパッドまたはコールドパッドを渡し評価の後、その報酬として2 つの選択肢を与えました。
1. 自分用のドリンクまたはアイスクリーム券
2. 友達用のドリンクまたはアイスクリーム券
その結果、ホットパッドを渡された参加者は、約54%が友達用を選び、コールドパッドでは約75%が自分用を選びました。
物理的な暖かさは、報酬の種類に関係なく、個人的な報酬より、友人への(社会的報酬)を選んだのです。
温かさは、人の判断だけでなく、他人に対する行動にも影響を与えることが示されました。
2 つの実験結果から、
“人は温度変化によって、優しくなったり、利己的になったり行動が変わる” ということが示唆されたわけです。
デートの時、すかざずホットコーヒーを注文して相手に飲んでもらえば、自分のことをやさしい良い人だと評価がえられるかも!
恋人ゲット! 温かさが、相手の心を開かせるかもしれません。
著者は、身体のどこかの温度が変わると、脳のインスラ(島皮質)という部分で感じ取り、インスラは“温まる”という変化に対して “気分が和らぐ”というように反応すると言っています。最後に著者は、幼児期の母親からの温かい愛が、人間関係における温かさと成人の行動の正常な発達に不可欠だとも述べています。
そして、10 年経て、2018 年に
オリジナルよりも3 倍以上被験者を増やし、学生以外も対象とし、現実に近い形で追試実験が行われました。
その結果、2018 年の追試実験ではホットコーヒーの効果が得られませんでした------失敗、残念。
スモールスケールで効果があってもラージスケールにすると統計学的に効果がでなくなることは、時々あります。
特に、心理学の研究はあまり再現性が高くありません。大人数では個々人の誤差も大きくなります、年齢差(高齢者では熱感受性が鈍い)も出てきます、実験室レベルで実施していたのが大きな部屋で実施すれば集中できないし、雰囲気も違ってきます。
でも、10 年前の結果は結果で、その条件下では正しかったのです。
バンダナ先生としては、
実験ではコーヒーをもっていた時間は短時間です。温める時間を長くして温度差をちゃんと感受できれば、成功するのではと期待しています。 ホットコーヒではないが、お風呂に入り湯に浸かると、“ホットする”、あの瞬間、あのホット感は心を優しくしてくれます。
体が、外気温(20-30℃)から湯温(40-42℃)に浸り、温度変化を感受することにより、著者いわく“インスラ”により気分が和らぐのかもしれません。また、40-42℃の湯に浸かるとエンドルフィン(脳内麻薬)が分泌され、良い気分になったり、痛みが緩和したりすることが知られています(お風呂に入ると腰痛や筋肉痛が和らぐ)。
世界中の人がお風呂に入り、優しい気持ちになったら、
戦争やいがみ合いも許せる気持ちになるかもしれない!
やっぱり、戦場にもお風呂タイムが必要だ!
災害の被災地にもまずはお風呂を設置しよう!
大げさかもしれないが、お風呂が平和をもたらす一助になるかも知れない!